「いいじゃねえか。」

「ダメだってば。」



「ちょっとだけだ。」

「あんたの場合、ちょっとじゃ済まないじゃないの。」



「一回だけだ…。」

「ばか。駄目よ…。」



「かごめ…。」

「今日はだめ…。」

もう夜もふけてきたという時間、15歳の少女の部屋では先程から小さな押し問答が繰り広げられていた。

かごめのベッドの上に胡座をかいているのは緋色の衣を纏った長い黒髪の少年。いつもと違って、その姿は人間と相違無い。かごめはすでにその少年の腕の中におさめられていた。

少年は頬に接吻を繰り返して耳元でそっと囁く。かごめの耳が感じやすいのを知ったうえでの犯行だ。拗ねたような目をしてかすれた声で甘えながら少女の白い肌をねだる。いつもの命がけで妖怪と戦っている姿からは想像もつかない。

「厭じゃねえんだろ？」

「厭じゃないけど、下の部屋にはママも爺ちゃんもいるし…。隣の部屋には草太が寝てるし…。」



「静かにやればいいだろ。」

「無理よ。」



「かごめ…。」

「お願いだから…。明日はテストだし勉強しないと…。」



「すぐ済ます。」

「だめよ。犬夜叉…。」



「かごめ…いいだろ…。」

「だめ…。」

　犬夜叉。あんた、いつからこんなにねだるのが上手くなったの…

人間の姿の犬夜叉は一見クラスの男の子と変わりないように見えるのに、宿命を背負った男の瞳は鋭くて熱い。その目で見つめられると身体が痺れて動けなくなってしまいそうになる。

牙の無い口元。鋭い爪の無い指先。光沢を放つ長い黒髪。黒曜の瞳に長い睫が影を落とす。いつもと違う美しさと雰囲気を漂わせ甘く執拗にかごめを誘う。

ともすればムードに流され応えてしまいそうになる気持ちを理性を総動員してかろうじて抑える。

15歳の娘の部屋から嬌声が聞こえてくるなんて事態はなんとしても避けねばならない。

　もう。明日はテストだっていうのに…

犬夜叉がいたら勉強にならない事は分かっていたのだが今夜は朔の日だ。大事なテストは外せない。でも、朔の日に犬夜叉を戦国時代に残してくる事は出来なかった。彼がいつもどんな顔して月の無い夜を過ごしているか知っているから。

強がる犬夜叉を無理やり連れては来たものの、今は少し後悔しはじめていた。背中に回された腕は応と言わないかぎり離して貰えそうにない。こうなってしまった犬夜叉を止めるには、もうあれしかない気がする…。

「犬夜叉、…おすわり…。」

「わっ！」

呟いただけなのに言霊の効果は絶大だ。
犬夜叉は勢い良くベッドに沈む。

いつもならここで悪態つかれるところだか…。
彼は横たわったまま何も言わない。代わりに、拗ねたような漆黒の瞳に悲しみの色が宿る。捨てられた子犬のような目でかごめを見据える。

　ずるい！するいわよ、犬夜叉

　そんな顔、するなんて。反則よ…

少女は小さく溜息をつく。

　犬夜叉。あんた、あたしを浪人させる気ね？

かごめは諦めたように、意を決して彼の袴の前ひもと下帯を解きはじめた。みるみると犬夜叉の下半身が露になる。

「か、かごめ！？」

「…おすわり…」

「うあっ！」

起き掛けた上半身が再びベッドに倒された。

「あんたは、おとなしくしてて。」

「かごめっ…。」

　あ、あたし何やってるんだろ…

　男のひと無理やり押さえつけてこんなこと…

自分の行為を客観的に見てあらためて赤面する。

すでに硬く大きな塊になっていたものをそっと両手で包む。
手で優しく扱く。接吻して、舌を這わせた。
彼の身体が反応する。

「…っっ…はぁっ…。」

犬夜叉はいつもと違うかごめの大胆な行動に大いに戸惑い、頬を紅潮させて困ったような複雑な表情でなすがままにされていた。

自分をかまって欲しい受け入れて欲しいと、散々駄々をこねてかごめを困らせていた彼の象徴を優しく口の中に迎え入れる。手で扱きながら舌を踊らす。

「くっ…う…。」

犬夜叉の口から声が漏れる。

　身体が…。人間の身体のせいか？

　いつもと違う。いつもより、感じやすくなってやがる…

かごめの戸惑ったような慣れないぎこちない愛撫が、犬夜叉のより一層の興奮を掻き立てた。

　これで、いいのかしら…。よく分からないけど…

かごめはいつも彼が自分にしてくれているのと同じように手と舌をその引き締まった肌に這わせた。

左手で支えて口を上下に動かす。右手で太股の内側をゆっくりと撫でる。時には激しく時には優しく変化をつけて彼の反応を確かめながらどこが一番感じるのかを探りそこを攻める。

　ああ、お願いよ…早く終わってしまって

いいかげん顎が疲れてくる。

彼の下半身を滑らせていたかごめの右手がふたつの丸いものに行き着く。手で包んで優しく揉みしだく。

「あっ…」

そのひとつを口に含み舌で転がした。

「う…」

打てば響くような反応が、面白い。かごめはだんだん、遊んでいるような楽しい気持ちで彼の声を聞いていた。

やはり一番感じるのはここらしいと、判断したのは象徴の先端。そのすぐ下の窪み。かごめの舌が集中してそこを攻める。同時に左手で摩りながら右手はふたつの丸いものをもて遊ぶように撫でる。

「…はっ、あっ…」

そして、少しずつ彼を絶頂へと導く。

「うっ…あっつ…！」

やがて彼の身体がおおきく痙攣して白濁とした熱く激しい情熱がかごめの口内に勢いよく放出された。
口中に苦味が広がる。飲み込んでしまおうかと思ったけど、とても無理だ。かごめはティッシュをとって吐き出した。口に残った苦味を机にあったコーヒーで流し込む。

　よかった…いつもより、早く済んだ

　あたし、けっこう才能あるのかしら

自分の考えたことが恥ずかしくて再び赤面する。

犬夜叉は大の字に横たわったまま放心したように宙を見つめていた。

かごめはその想いを遂げてちからを無くしてゆくものをそっと下帯で包み袴を元に戻す。彼は赤子のようにされるがままだ。

「ごめんね、犬夜叉。」

「…責任、とれよな。」

「え…？」


「おれ、もう婿に行けねえから、おまえが責任とれ。」

「えっ！」

たった今自分のしたことをリアルに思い出して、さらに赤面する。

「ば、ばかっ。なに言ってるのよ。もうっ！」

　みんな、あんたのせいじゃないの〜っ！！

かごめはまた小さく溜息をつくと、横たわった犬夜叉に毛布を掛ける。

　あんなことした後だけど、気持ちを切り替えて勉強しないと…

「あたしは勉強するから、犬夜叉はおとなしく寝てて…。」

目を閉じた彼は、うわ言のように呟く。

「一人じゃ、眠れねえ…。」

かごめは頬を寄せて、囁くように答えた。

「あんたはもう、一人じゃないでしょ。」

「かごめが、そばにいないと…。」

「あたしはここに、いるじゃないの…。」

そっと手を握り唇に口付ける。

「………。」

ようやく彼は静かな眠りについた。

大きな子供を寝かしつけたかごめは、深く溜息をつきベッドの脇に座り込んだ。めったに見られない人間の犬夜叉の寝顔を見つめる。

　あたしだって、人間の犬夜叉と抱き合いたいけど…

　また、今度ね

でもそれは障害が多い。朔の日は仲間達が気を使ってそばにいてくれるから、二人っきりになる事はまず無い。何よりも犬夜叉は火鼠の衣を決して脱がないだろう。ただでさえ最大の弱点を晒してしまっている時に、鎧を脱ぐことなどしない。わずかな隙を見せることも。ただ気を張り詰めて、じっとその時を待つ。長い夜が終わりを告げ朝日が訪れる時を。

今まで、何度そんな夜を過ごしたのだろう。永遠に続くかのような暗闇の中にひとりぼっちで、小さな物音にも怯えて震えながら。

どこかで敵に見られてしまったかもしれない。狡猾な敵は半妖の弱点を見逃しはしない。必ず弱くなった時を見計らって襲撃してくるだろう。自分の命どころか守りたいものさえ守れないかもしれない。そんな時に、色事どころでは、無い。

　でも、こっちなら、大丈夫よね…

　現代にもいろいろ障害があるけど、いつか…

人間の犬夜叉は眠る。
かごめの優しい匂いに包まれて、すやすやと安心したように眠る。

少女はその頬に触れたのが分からないくらいに、そっと口付ける。

　おやすみ。犬夜叉…

　ゆっくり眠ってね

　あたしはずっと、そばにいるから

＜コメント＞

読んでくださってありがとうございます。m(_ _)m

ちょっとシリアスでしたかね。
おねだり犬君が書きたかったの〜。かわいいでしょ？
夫に読んでもらったら、「かごちゃん大胆すぎ〜(>_<)」と言われてしまいました。だって、しょーがないじゃないですか。犬君にあんな顔されたら、他に、どうしようがあります？奥さん。(^^;
男のひとには不評ですかね。かごちゃんが脱いでないからか？
でもこれを読んでくれてるのはほとんど女性でしょうから、まあいっか。(^^;

皆さんはどう思われたでしょうか。ご意見ご感想お待ちしております。