「おれと所帯持たねえか？」

これは紛れも無くプロポーズなのだろうが、それを口にする状況がどうも常人とは違う。

「あっ！あっ！あっ！…ええっ！？？」

激しく悶えながら今にも絶頂を迎えようとしていた少女は、上から降ってきた突然の言葉に耳を疑った。

「祝言あげようぜ。」

「ちょっ…、ああっ！あっ！」

少女に覆い被さった銀髪の少年は腰だけを忙しく突き動かし、潤んだ瞳を上からまっすぐに見つめながら落ち着いてこれを言う。

「おまえひとりくらい、いくらでも食わせてやる。」

「犬…あ…あっ！あんっ！」

　犬夜叉あんた、なんてことしながら言うのよ！

ここは戦国の若い法師と退治屋の娘夫婦の新居。

犬夜叉は妖怪退治の仕事で出かけた家主の留守に寝室を借りて昼間からかごめと事に及んでいた。

「なあ、こっちでずっと一緒にいよう…。」

「ああっ！あっ…！」

　なんで、こんなすごいことを

　こんなことしながら

　冷静な顔して言ってんのよっ！

「一生、おまえを守ってやる。」

「あああっ…あ…。」

ものすごく大切な言葉をこんな風に言われて、感激しながらも同時に怒りが込み上げてくる。

「ずっと一緒に、生きようぜ…。かごめ。」

「ああんっ…あん！」

　もっと、ロマンティックに言われたかったのにっ！

　犬夜叉のばかあっ！！

「ずっと…傍にいる…。」

「…あ…ああっ！」

嬉しい言葉に酔いしれたいのに、身体の方がそれどころでは無い。

「ずっと、一緒だ…。」

「…犬…。」

「離さねえ…。かごめ…。」

「…夜叉…ああっ…。」

　もう…犬夜叉…

　これじゃあ、返事も出来ないじゃないの…

夢にまで見た欲しかった言葉の羅列。

でも

かごめは、言われてみて初めて、今の自分には答えられない申し出だと気付く。

　あたしは、まだ高校生だわ…

　こっちでは適齢期かもしれないけど、現代ではまだまだ子供で…

　できたら大学にも行きたいし

　将来の夢は漠然としているけれど
　今はまだもっと勉強していたい

　知らないことをたくさん知りたい

　あたしは犬夜叉のことが好きで
　ずっと犬夜叉の傍にいたいのはほんとだけど

　でも今は…

　今は

「でもおまえは、こーこーっていうめでてえとこに通ってんだもんな。」

「ああ、あっ…！」

　犬夜叉？

「その後は、だいがくって、もっとめでてえとこに行くんだろ？」

「ああっ…！」

「おまえがそうしたいなら、しょーがねえよな。」
　
「あ！あ！あっ！」

「待ってるからよ。」

「…犬…。」

「ずっと、待ってるから…。」

「…夜叉…あっ…。」

　犬夜叉…

　あんた、もしかしてあたしがまだ応えられないこと知ってたの？

　あたしが返事できなくて…困るって、知ってたの…？

　だからこんな言い方したの？

　そうなの？

　犬夜叉…

「おれには時間があるんだから、気にすんなよ。」

「あああああっ！！」

ここまで聞いて、果てた。

この言葉に、一筋の不安がよぎる。

　犬夜叉はどのくらい長生きするんだろう

　あたしがおばさんになっても、おばあちゃんになっても
　犬夜叉は若い姿のままなのかしら…

　そんなのって、辛いかも…

　すごく、哀しいかも…

「でも、早くしろよな。」

遅れて絶頂を迎えた犬夜叉に、こう囁かれると

「うん…。」

そっと頷いた。

　犬夜叉…

「ねえ、犬夜叉。」

「ん？」

「あたしが年を取っても…気持ちは変わらない？」

「年くったって、おまえはおまえだろ？」

「うん。そうだね…。」

心配になっていた心が和らぐ。

そうだ、このひとは、こういうひとだった。

こういうひとだったのだ。

　あたし…


　どれだけ犬夜叉と付き合ってきたのよ

　心配なんかして、ばかみたい…

かごめは泣きそうにやわらかく微笑んで、彼を抱きしめた。

「ねえ、その時が来たら、もう一度言ってくれる？」

「何をだ？」

「さっきの言葉、全部。」

一瞬、彼の頬に朱みがさしたが、すぐに微笑んで

「いくらでも言ってやるよ。」

しずかに深く口付ける。

　いつか…

　いつかね…犬夜叉…



　
　その時、もう一度言ってね

　今度はロマンティックに言ってね？

　うんと素敵に言って

　約束よ？犬夜叉

　犬夜叉…

どんな豪華なエンゲージリングよりも眩い輝きを放つ

かごめにとってその言葉は

目には見えない至極の宝石。