慰撫
都心とはいえ、郊外の住宅街ならひっそりと寝静まる時間だった。 神社の敷地内にあるその家には、人の気配は無いかに見えた。 二階の一角にある少女の部屋を除いて。 「良かったか…？」 部屋の明かりは消されているのに 「かごめ…」 一組の男女の、荒い息遣いが部屋中にひびいていた。 まるで二人で全力疾走したかのように、滴る汗と高い体温が室内の湿度を上昇させていた。 なかなか呼吸が落ち着かないさまが、直前まで行われていた情事の激しさを物語っている。 なのに 「なあ、もう一回…いいか…？」 行為が終わって繋がっていた身体を離したばかりというのに、すかさず発せられたこの言葉に息をするのがやっとだった少女は絶え絶えに答えた。 「や…今…したばかりじゃない…」 「足りねえんだ…かごめ…」 甘えるように頬をすり、 再び元気いっぱいに膨らんだ自身を少女の太腿に押し付けながら犬夜叉は苦しそうな声を出した。 「だって…もう、眠く…なっちゃった…」 重たそうな瞼が徐々に閉じられ、やがて、かごめの呼吸は穏やかな寝息へと変わってしまった。 「かごめえっ…！」 叫んでみたが、深い眠りに落ちていく少女を止められなかった。 「〜〜…」 犬夜叉はひとつため息をつき 「しょうがねえな…」 と呟くと、硬く勃ち上がった自身を目視し、また深くため息をついた。 もとより二度目など、体力の無いかごめには無理は承知で頼んだこと。 外で冷やして落ち着けようと寝台から降り、かごめに掛布をかけてやると 「ぅ…ン…」 寝返りを打ったかごめの腕が掛布を乱し、豊かな胸のひとつがぽろりとこぼれ、すらりとした足が付け根まで露になった。 すると、あきらめて俯きかけていた自身が、瞬時に力を取り戻してぐぐっと天井を見上げた。 犬夜叉は握り拳をふるふると震わせながら叫んだ。 「てめえ、このやろう…！寝ながら誘ってんじゃねえ！犯すぞ、コラ！！」 怒鳴っても、目の前の女は起きる気配すら見せない。 先ほどまで、かごめの全裸を上から眺め攻めていたのに いちど布で隠された身体が、無垢な寝顔のまま無意識の行為でもちらりと見せられるのは （拷問だ…！） 折角、諦める気になっていたというのに 濡れて艶めく唇が微かに開いて、 上気して火照った肢体は、うっすらと浮かんだ汗できらきらと輝いて見える。 まるで 誘っているようにしか見えない 「どうしてくれるんでい…」 血管を浮き立たせてやる気満々に膨らんだ自身を、どうやって説得したらいいのか。 責任を取るべき少女は、己の罪を知らずに夢の中にいる。 かごめの花穂から立ち上る蜜の香りにくらくらとする頭をぶるんと振って覚醒を促した。 頭ははっきりとしても、暴走しそうに脈打つそれを諦めさせることは不可能だった。 この罪深い女をどうしてやろうか ―寝てたってかまわねえ、犯っちまえよ…― 残酷なもう一人の自分が、とてもかごめには聞かせられない言葉を耳元で囁いた。 その声に、従ってしまいたい衝動に駆られた。 自分には、それが出来る力がある。 しかも無防備に眠る女を無理矢理犯すことなど、簡単だ。 犯ってしまおうか…かごめはきっと許してくれる― だが、混在する理性がそれをおしとどめた。 「い…ぬ……」 かすかな声が、眠るかごめの唇からこぼれた。 ―たたき起こして銜えさせろ― 再び聞こえた残酷な己の声を、今度はきっぱりと無視した。 「…やしゃ…」 少女の夢の中に犬夜叉がいて、彼女を優しく抱きしめているのだろうか。 この眠りを妨げてはならない たとえそれが自分でも。 まるで、眠り姫の番人になったかのような気持ちを覚えた。 それでも、猛々しく求める自身には伝わらない。 犬夜叉はみたび、ため息を付いた。 「てめえ、起きたら覚えてろよ」 姫君の耳には届かないと分かっているのに、言わずにはいられなかった。 犬夜叉は、己の硬い肉塊を右手で掴むと、かごめの寝台の脇に跪き 「かごめ…」 かごめの姿態を瞳で抱きながら、かごめの膣内の感触を思い出しながら、慣れた手つきでそれを扱いた。 「くっ…！」 （なんでおまえが目の前にいるのに、右手使わなきゃなんねえんだ。ちくしょう…） 「かごめ…」 彼女を起こさぬように、そっとその名前を呼んだ。 眠る女を肴に、裸の男が自身を慰めている情けないさまはとても見せられたものではない。 それでも、無体をはたらくよりはましだ。 やりたいやらせろと欲望の権化と化した自身と、姫君を守る番人がせめぎあい闘って ようやく折り合いをつけてここにたどり着いたのだ。 男なら誰でもするであろう、ありふれた手淫であっても こんなことが、かごめを守る荘厳たる行為のように思えてくる。 その部屋の中には、すやすやと安らかな少女の寝息をかき消すように男の荒々しい吐息と何かを素早く擦る音が響いていた。 かごめの身体の柔らかさと温もりを かごめの恍惚とした表情を かごめの切なげな嬌声を 頭の中に思い起こしながら 犬夜叉は 差しのべるように伸びたかごめの手のひらに、気付かれないほど微かな口付けを落としながら 「はっ…！あ…！」 熟練した右手の働きにより速やかにそこに誘われていく。 自分の身体を自分の手が扱うのだから当然なのだが、どこをどう刺激すればどう感じるかはよく分かっている。 ともすれば、かごめの中でそれを行うよりも効率的に絶頂へと導いてくれる。 「くっ！かごめっ…」 やがて頂点に達し、全身を痙攣したように震わせると、右手のひらの中に白濁とした想いを吐き出した。 そして、息を整えながら全身に訪れた痺れるような疲労感を受け止め かごめと一緒に感じたわけではないことに、若干の寂しさを覚えながらも 幸せそうに眠るかごめに目を落とすと、この安らかな寝顔を守れたことに満足感を感じた。 ようやく満ち足りて萎んでいく自身を放し、指の隙間から零れそうなそれを、かごめがいつも使う柔らかい紙を使って拭うと 再び寝台に潜り込みかごめの頭に左腕の枕を提供して、掛布をかぶった。 自分の忍耐も努力も妥協も気遣いも 何も気付かずにすやすやと眠るかごめの顔を真横で見て、犬夜叉は今日何度目かも分からない深いため息をついた。 「…のんきな顔して眠りやがって」 こんなことを言ったところで詮ないことだが 「おまえは知らねえだろうけどな…」 知られたくもないが、愚痴のひとつもこぼしたくなるというもの。 「男はなあ、大変なんだぞ」 |
（終） |
＜コメント＞ 慰撫（いぶ）読んでくださってありがとうございます＾＾ これも、三年位前から書きかけで止まっていたお話です。 犬君の自○行為が書きたくて(^^ゞ;かきました。 ずいぶんと前から書くと宣言していたのに、こんなに遅くなってしまいすみません。 主人公の自○なんて、どんな話になるんだろうと、かっこ悪い恥ずかしい話になるかもと心配だったのですが、けっこうきれいにまとまったんじゃないかなと思っております。 今回、虎姫さんには見せてませんので虎姫さんの感想はありません。 こんな話はちょっと男の人には見せにくくて(^^ゞ; 虎姫ファンの皆さんすみません。（は？(^^; いかがでしたでしょうか、感想など頂けると喜びます＾＾ |