騒々しい位鳥が鳴いていた。
冷たい、山の湿った空気が漂う。
閉じた瞼に明るい日差しが当たって眩しい。

　朝？

かすかに目をあけると、心配そうな金色の瞳が自分を覗きこんでいた。

　犬夜叉…？

身体を動かそうとした時、下腹部に鋭い痛みが走り思わず顔を顰めた。

「痛っ。」

「かごめ…。」

今はっきりと目が覚めた。
横たわったままおそるおそる自分を見ると、緋衣を掛けられた何も身に付けていない自分がいた。

「きゃっ！」

身体を縮めて衣の中に潜り込む。

　そうだ、思い出した。あたし、ゆうべ…犬夜叉と…

昨夜の行為がリアルに甦り、みるみると頬が染まる。

「まだ…痛むのか…？」

犬夜叉がおずおずと尋ねる。
そっと衣から顔を出して答えた。

「…少し…。」

「……。」

犬夜叉は俯いて暗く沈んだ面持ちで言った。

「すまなかったな。痛え目にあわせて…。」

「犬夜叉…？」

金色の瞳を曇らせて俯く犬夜叉の顔を見つめながら、とてつもなく寂しい気持ちに襲われた。

　なんて顔してるのよ
　あんた、もしかして後悔してるの？

　ねえ
　そんな顔しないで…
　誘ったのは、あたしなんだから…

気付くと、彼はもう袴と白い筒袖を着込んでいる。こんな明るい所で自分だけ裸でいるのが無性に恥ずかしくなった。

「犬夜叉、ちょっと向こうむいてて。服を、着るから。」

黙って向きを変えた犬夜叉の背中を見ながら手足に力を入れる。
身体の関節がびしびしと痛む。
なんとか上半身を起こしてぎょっとした。身体の至る所に痣が出来ていた。微かな引っかき傷も所々に見える。

　こんな…

痣を手で抑えながら、なんだかとんでもない事をしてしまった気持ちになる。母に申し訳ないような後ろめたい気持ち。

こく、と固唾を飲み込む。

でも。
誰でもいつかは通る道だ。

股関節が痛くて難儀しながら下着と服を身につけた。
これではとても、歩けそうにない。

立ってみようとした時、衣に乾いた血がこびリ付いている事に気付く。小さなコップ一杯こぼしたほどの赤黒い血。

「きゃっ！」
「どうした？」
「ご、ごめんね。犬夜叉の衣に血…付けちゃった。洗ってくる…。」

　こんなに出血するなんて…！

犯罪の証拠を残してしまったようで慌てた。
震える手で衣を握り締めて立ち上がろうとするが痛みで立てない。

「そんなの気にするな。」

「だって…。」

動揺する身体をそっと抱きしめられる。抱きしめるというよりも、包み込むという感じ。

「おれが流させたおまえの血だ…。」

犬夜叉の表情が重く固いまま変わらない。

　犬夜叉やっぱり、後悔してるのね…

手鏡であちこち確認すると、首筋に服では隠せないほどの痣が見えた。

　やだ…。どうしよう…
　これじゃ、皆に会えないわ…
　弥勒さまにはぜったいばれちゃうわよね
　恥ずかしい…

リュックに入っていた栄養補助食品でかるく朝食を済ませる。
仲間が心配してるだろうからすぐに下山することになった。

「歩けねえんだろ、背にのるか？」

「それも…ちょっと…。」

足を開く事が出来ない。
痣のある首筋を手で抑えて足を斜めに揃え座った姿勢のまま動けなかった。

「……。」

犬夜叉はかごめに緋色の衣を掛け、荷を肩に担ぐと両腕でそっと抱き上る。
揺らさないように、でも早足で歩き出した。

かごめは歩幅の揺れに酔った様な眩暈を覚えながら目を閉じて彼の温もりを感じていた。下腹部の痛みが疼く度に昨夜の激しい快感と苦痛、彼の残酷さと優しさを同時に思い出す。

男は女を征服してしまうとその女への興味が薄れるとか、以前読んだ雑誌の記事が頭をよぎる。そんなことは無いにしても、犬夜叉の様子を見ているとこれからのことが不安になる。やはり一線は超えてはいけなかったのか。自分のした事は間違いだったのか。後悔しないと決めた気持ちが揺らぎそうになる。

山を降りるまでどちらも一言も口を開かなかった。

村に戻ると、二人に気付いた仲間達が駆けて来た。

「かごめちゃん、犬夜叉！心配してたんだよ。」
「どうした、犬夜叉。かごめさまに何か？」
「かごめ！どうしたんじゃ？」

かごめは何も言えず犬夜叉に抱かれたまま首の痣と染まった顔を衣で隠した。

「かごめ、具合が悪ぃみてえだからしばらく郷里に返すぜ…。すまねえな。」

犬夜叉はそれだけ言うと井戸に向かって歩き出した。
取り残された三人は心配そうに顔を見合わせる。

「どうしたんだろう、あの二人。」
「昨夜、なにかあったみたいですな。」
「かごめは病気なのか？」

かごめの家の玄関に着くといつもと様子の違う二人を見た母が心配そうに聞いた。

「どうしたの？かごめ。」

おれが、犯った。
とは言えない。

犬夜叉はかごめの母の目を見ることが出来ずに少し俯いたまま答えた。

「こいつ、熱があるみてえだから、寝かせてやってくれ…。」

「まあ、大変！じゃあ、悪いけどかごめの部屋まで運んでくれる？」

測ってみるとほんとに少し熱が出ていた。

「薬を飲んでゆっくり寝ていなさい。あとで、お粥を持ってくるわね。」

微熱だったので安心した母が部屋を後にした。
母の顔をまともに見られなかった。
今まで大切に育ててくれた母への罪悪感をひしひしと感じる。
まさか娘がこんなに早く経験するとは思ってもいないだろう。

　ごめんね。ママ
　でもね、自分で決めた事なの
　あたしが自分で決めたの…　

また犬夜叉に背を向けてもらってパジャマに着替えた。
痣が痛々しくくっきりと残っている。

　これ、どのくらいで消えるんだろう…

胸の先端がまだ固く立ち上がり熱を帯びている。パジャマの布が触れるとひりひりと痛い。

　身体は、ぜんぜん忘れていないんだ…

　もう、戻れないのね

期待　不安　羞恥　快感　恐怖　苦痛　幸福。
昨夜一夜で沢山の事を知ってしまった。
知りたくなかったことまで。

　ううん。犬夜叉
　あたしはきっと、知りたかったの
　知りたかったのよ…

まだ、下腹部がじんじんと痛い。

ほんとにあの激しい苦痛がすべて快感に変わるのだろうか。
とても信じられない。ずっと痛いままなのかも。人それぞれ違うのかも。雑誌で得た知識などあてにならないのかもしれない。

男の人の快感は一瞬だけど女はずっと続くとか。
でも二度目を求められたら応と言える自信は、今は無い。

犬夜叉の背を見つめる。黙って俯いて座っている彼が、なんだかとても遠くにいるように見える。
昨夜はあんなに近くに感じていたというのに。

　寂しい…犬夜叉
　こんなのさびしいわ…

かごめは痛む身体を横たえて首まで毛布を被り痣を隠して、右手を差し出して彼を呼んだ。

「犬夜叉…。」

ゆっくりと振り向いた犬夜叉がそっとかごめの手を握った。

「あたし…すぐに治るから、心配しないで。」

「……。」

　後悔なんか、しないで
　つらくなっちゃうじゃない
　あたしは、後悔してないんだから

「すまねえ、かごめ…。」

彼はかごめから目を反らし俯く。

「犬夜叉、傍に来て…。」

手を握ったまま少し寄る。

「もっと来て。」

もう少し近づく。

「もっと…。」

かごめは彼を少しずつベッドの脇まで導いた。

　誘ったのがいけなかったの？
　あたしはいけないことをしたの？
　もう、キスもしてくれないの？

　ねえ…
　犬夜叉
　こんなの嫌よ…

「犬夜叉、あたしは大丈夫だから…。」

「すまねえ…。」

「謝ったり、しないで…。お願い…。」

「かごめ…。」

　乱暴に抱きしめてしまった
　もっと優しくしてやりたかったのに

　突き上げて来る欲情に支配されてどうすることも出来なかった

　かごめはあんなに痛がっていたのに
　かごめの悲鳴が聞こえていたのに

　激痛に歪むかごめの顔を見つめながら
　涙を知りながら
　血の匂いを感じながら

　止められなかった

　おれは
　


　獣だ…。けだものだ…！

　こんな…

　かごめの血の匂いが纏わり付いて離れない

　これは戒めだ。おれへの罰だ


　すまねえ、かごめ




　　
　すまねえ…

犬夜叉はかごめの潤んだ瞳を見ていられずに目を閉じると、握っていた少女の右手を抱きしめて震えながらその手に優しく頬擦りと口付けを繰り返した。

　もう触れまいと思う

　でも耐えられるのか？
　あの白い肌を知ってしまった今となっては

　滑らかな絹の手触り　羽毛の温もり　真綿の弾力　

　忘れる事など出来ない。絶対に

　封印は解かれてしまった
　錠は外され、扉は開かれた

　あの笑顔がいつもすぐ目の前にある

　この手を伸ばすだけで
　死ぬほど欲しいものに届いてしまう

　抑えられるというのか？
　そんなことが出来るのか？

　無理だ

　無理だ！



　
　かごめが欲しい…

　そのすべてが…欲しい

　傍にいるのが辛い
　またおまえを傷つけてしまいそうで、怖い
　ずっと傍にいたいのに

　苦しい
　
　かごめ…

　おまえを見るのが苦しい

その時は突然やってきた。

野宿が続いたので女子に気を使った法師が骨休めにと日暮れ前に町の宿を決めた。八畳ほどの部屋に通されると黒衣の法師はいそいそと立ち上がった。

「私は少し町の様子を見てきます。」
「ちょっと法師さま、女ひっかける気じゃないだろうね！」
「おらも外で遊んでくるぞ。」

小袖姿の娘は猫又妖怪を抱いて法師の後に続き、子狐妖怪も元気良く飛び出していった。

後に残されたのは半妖の少年と異国の服を纏った少女。
あっという間に締め切られた部屋に二人きりにされてしまった。

部屋の端と端に離れて座っている犬夜叉とかごめの間に重たい空気が漂う。
犬夜叉は難しい表情で俯いたままかごめの顔を見ようとしない。

一分が一時間にも感じるような苦しい沈黙。
微動もできず、息をするのも辛くなってくる。

耐えられずにそれをそっと破ったのはかごめだった。

「犬夜叉、そっちに行ってもいい？」

「だめだ。」

重たい声で拒否される。

「ちょっとだけ…。」

「だめだ。あっち行ってろ。」

彼は顔を背けた。
それでもかごめは犬夜叉のそばに寄って座った。
こんなに離れていては話も出来ない。

「言う事聞けっ！」

「きゃっ！」

突然乱暴に腕を捕まれる。
その力の強さに、一瞬怯えた。

彼は険しい表情でかごめを睨みながら低い声でそれを聞いた。

「おれが、欲しいと言ったらどうする？」

「…！」

全身の血が冷たくなった気がした。
あの日の激痛が生々しく甦り下腹部がしくしくと疼いた。
一週間経っても癒えなかった痛みと消えなかった痣を思い出し少女の瞳が恐怖で震える。

犬夜叉は小さく溜息をつくと、手を離して背を向け呟いた。

「向こう行ってろ…。」

「犬夜叉…。」

かごめは跡がつきそうなほど捕まれた腕を摩りながら答えた。

「いいわ…。」

「！！」

「いいわ。犬夜叉。」

犬夜叉は振り向く。
恐怖を追い払い、何かを決意したような少女の瞳を見つめる。

「また痛えかもしれねえんだぞ。」

「平気よ。」

「また辛い目にあわすかもしれねえ。」

「平気。」

「おまえ…！」

「犬夜叉、あんた、あれからずっとあたしの顔見ようとしなかったじゃない。あたし、辛かった。あの晩の痛みよりも、ずっと痛かったわ…。」

「かごめ。」

少女の瞳に涙が滲む。

「こんなのは、いや。」

「…。」

「もう、いやよ…。」

「…。」

「いいわ…。犬夜叉。」

「……。」

「して、いいわ…。」

彼はかごめを見つめて微かに震えながら、呟く。

「そんなこと言うと、ほんとに犯っちまうぞ。」

「いいって言っ…」

気付いたのはすでに身体が動いた後だった。かごめを押し倒し唇を奪っていた。

「くっ…！」

それでも両の拳を握り締め目をぎゅっと瞑って激しく首を振る。彼は必死で何かを堪えようとしていた。
かごめは上にいる犬夜叉の重みを感じながら、囁く。

「きっと、大丈夫よ…。二度目だもの…。」

「……。」

「犬夜叉…。」

「かごめ…。」

しばらく閉じていた目が開かれ、金色の熱い瞳が少女を見つめた。

「…いいんだな…？」

「…うん…。」

「…すまねえ、かごめ…。」

耳元で囁くと、そのまま首筋に顔を埋めた。

少女の首筋と唇に口付けを繰り返しながら前回よりは遥かに落ち着いている自分に気付きほっとした。あの時ほど非情にならずに済みそうだ。

紅いスカーフを解きセーラーの前をはだく。背中のホックを外すと形のよい胸がぷるんと弾んでこぼれた。すでに固くなっていた紅い蕾を口に含んで舌で転がす。
あの夜の激しい官能を思い出した少女の身体がその秘めた泉にとくとくと豊かな蜜を満たしはじめる。
張りのある胸の谷間に顔を埋めながらスカートをめくり上げ右手を下着の中に滑り込ませた。中指で茂みの奥にある花芯を摩りながらさらにその奥を弄り、すでに充分に濡れていることを確認する。

「急ぐぞ。七宝がいつ戻るかわかんねえからな。子供に見せるもんじゃねえ。」

「…うん。」

子供に限らず、誰にも見られたくないのでその意見には賛成だった。この部屋には鍵も無い。

彼はかごめの下着だけを外し、自らの袴の前紐を解く。

両足を立てて開かされ、秘部に硬い先端が触れた。
かごめは怯えて震える身体をなんとか抑える。

少年は大きく息を吸って沸き立ち騒ぐ気持ちを鎮めてから囁く。

「…いくぞ…？」

早くなる胸の鼓動を感じながら、目を瞑って頷いた。

「うん…。」

腰を捕まれそっと挿入される。僅かずつ、ゆっくりと奥へ、肉を分け入り硬いものが進入する。

「…ううっ…！！」

思わず呻き声が漏れた。

「痛えのか？」

犬夜叉は腰を止め顰めたかごめの顔を覗き込む。

「…ちょっと…。でも、大丈夫…。」

「かごめ…。」

言葉とは裏腹なかごめの表情に心痛めながら、さらに奥へと進める。かごめの内壁の熱い体温を先端に感じて身体が痺れ興奮が高まってくる。

「つ…うっ！」

呻き声は耳に届いていたが身体が官能に導かれるまま、そっと腰を揺らした。

「くっ…う…！」

再び訪れた異なるものを激痛の記憶覚めやらぬ身体がなかなか受け入れようとはしない。
かごめは必死で痛みを我慢していた。初めて時の比じゃないにしても十分に痛い。

　ああ…。やっぱりまだ、痛い
　痛い…！
　お願い…早く終わって…。どうか…お願い…

「すまねえ…。」

犬夜叉が苦しそうに呟くと、ついに彼は若い身体の欲して止まない欲求に負けて腰を激しく突き動かした。

「…！！　あ

叫び声をあげそうになり、彼の手で口を塞がれた。
乱暴だがありがたかった。誰かに悲鳴を聞きつけられて様子を見に来られたらたまらない。

「う…。」

早く小刻みに突き上げられる。

「…ううっ…！」

口を塞がれ肩を抑え付けられ激しく揺らされ激痛に耐えながら涙を堪える。

拷問を受ける訓練をした人は、自分の意思で自由に気絶することが出来るとか。
今、気を失うことが出来たらどんなにいいか。と思う。

痛みから目を反らそうと別の思考を巡らせた時、自分の前世の姿が浮かんだ。

　桔梗…

　犬夜叉の姿をした者の爪に引き裂かれた桔梗
　裏切られたと信じて本物の犬夜叉を封印した桔梗

　どれほど辛かっただろう
　血を流した身体よりも、心が痛かったでしょう？

　５０年間も憎しみから動けなくて
　甦ってすべて奈落の罠だったと知った時には
　自分の身体は土で出来ていて
　死魂を纏わなければ動けなくて…

　犬夜叉の傍にはすでに他の女がいるだなんて…

　あたしがそんな目にあったらどうしよう

　どうしよう…

　そんなこと耐えられるかしら…？

　あたしを殺そうとした桔梗
　もしあたしが桔梗だったら、同じ事をしたかもしれない

そんな前世の運命に比べたら、自分は今なんと幸せな責め苦を受けている事か。

桔梗の無念を想い涙がこぼれそうになってあわてて気持ちを抑えた。

気付くと、徐々に慣れてきたのかだんだん痛みが軽くなってくるのを感じた。

　ああ、やっぱりそうだわ
　良かった…
　そうよね、ずっと痛いばかりじゃ、誰も結婚なんかしないわよね
　きっと、次はもっと痛くなくなるわ…
　もう、大丈夫よ…。犬夜叉…

かごめは犬夜叉の背中にそっと腕を回して、苦痛が薄れた事を彼に知らせた。

あたりに明かりが点されたころ、町の散策から戻った三人は留守番をしていた二人の間に先程とは明らかに違う雰囲気が流れているのに気付いた。会話は少なくぎこちないのだが時々熱っぽく見つめ合っては頬を染めている。

三人は集まって、こそと囁く。

「あの二人、仲直りしたみたいだね。」
「そのようじゃのう。」
「いや、喧嘩をしていたわけでは無いみたいですよ。」

「この間から様子が変だったよね。いつもの喧嘩じゃなかったの？」
「おそらく。」
「弥勒は知っておるのか？」

「まあ、察しはつきますが。」

法師は顎に手を添えて微笑む。

「どういうことさ？」

「珊瑚も、経験してみたいですか？」

唇の端を少し上げ意味ありげな瞳をした法師の問いに娘は首をかしげた。

「何のことだ？」
「おらにはさっぱりじゃ。」

法師は少し俯いて目を伏せ、すぐに顔を上げると遠くを見るような瞳をしてそれを言った。

「珊瑚。私はまだ青く酸っぱい実をもいで食べてしまいたく無い。」

そして、あどけない娘の瞳を見つめて微笑む。

「いつかその時が来るまで…紅く熟した美味しい実になる時まで、待つつもりなんですよ。」

「何の話だ？」

「どんなに腹が空いても、それまで待つつもりなんです。」

「だから、何の話だ！」

話の意味が見えずに、怪訝そうな顔の娘から目を反らして呟く。

「こちらの話です…。」

弥勒は誰も気付かないほどの小さな溜息をついて、少年と少女の初々しい様子を微笑ましく眺めた。

　ちくしょう、あのやろう。羨ましいぜ…