広いリビングの中央にある落ち着いた色調のふかふかのソファーの上に運ばれた。
彼は脱いだ上着を無造作に椅子の背もたれにかけて蝶ネクタイを緩めると、かごめの顎に手を添えて柔らかい口づけを落としながらそれと気付かせないほどゆっくりとドレスのファスナーを下ろていく。

「いやよ、犬夜叉。」

身体の力を解き従順に口づけを受けているさまはすでに恍惚としているように見えたのに、大きな瞳をこちらに真っ直ぐ向けて、落ち着いた口調でかごめは言った。

「ここまで来てしらける事言うなよ。」

うんざりしたような露骨に不愉快な顔をして、男はファスナーを下ろす手を止めた。

「あんたが連れてきたんじゃないの。」

初めて入った高級ホテルのスウィート・ルーム。
普通の家庭で育った女子大生であるかごめには夢のような場所だ。
高い天井。柔らかい照明。座り心地のいいソファーひとつをとっても洗練された豪華な調度品。壁には有名なイラストレーターの版画が飾られ、所々に手入れの良い観葉植物。優しい空調と清潔な香り。

このままうっとりとムードに流されてしまえたら、どれほど楽か。

奔放な若い女性になってしまえたら―

あんな形でパーティー会場から連れ去られてそのまま男の部屋に入ったなんて、あれだけ目立つ事をしたのだからすぐに噂になるだろうし、頭の固い年配の重役達はどう思うだろうか。よく思うはずも無い。

それに、嫁入り前の娘としては一応抵抗しないと、なんとなくだが母に顔向けできない気がする。
自分はもう大人だというのについ母に義理立てをしてしまうのは、大切に育ててもらった事を知っているから。

犬夜叉は小さく溜息をつくと、すぐ気を取り直したように、方膝をソファーに乗せかごめをそっと背もたれに押し付け

「いや…か…？」

耳元に唇を近づけて、微かに吐息がかかるようそっと囁いた。

この声。このトーン。この言い方。そして拗ねたような眼差し。

　こういう作戦で来たわね

「ん…？」

果てし無く甘く優しく。かごめから求めたくなるように

「嫌なのか…？」

かごめの欲望を引き出すように

「なあ…」

決して無理強いせず、でも懇願するように

「嫌じゃ…ねえだろ…？」

まるで、自分がとっている態度はとても酷いことのような
無垢な仔犬を苛めているような錯覚に囚われてくる。

「かごめ…」

湿った息を吹きかけられて、耳朶を甘噛みされて
身体の中心がぽかぽかと熱くなって四肢がかすかに震えた。

「いいだろ…？」

下腹部がきゅんと疼いて、すでに応という言葉しかこころには浮かばない。

「……じゃあ、…シャワーを使わせて…」

そして、結局折れるのはいつもかごめだ。

　これって、凄い才能よね…

ふだん乱暴でデリカシーのかけらもない男の人が、どうしてこんなことできるんだろう。

「シャワーなんか浴びなくったっていいじゃねえか。」

「だって、今日は汗もかいたし…」

「汗の匂いにまみれてするのがいいんだろ。」

「ばか。いやよ。」

「もう待てねえよ。」

甘えた声でまた得意のおねだり。

かごめはすでにソファーに押し倒されて、堅い部分を太股に押し付けられていた。

「お願い…」

「〜〜…」

わがままを一つ聞いてあげたのだし、自分の希望も聞いて欲しい。

やっぱり、きれいな身体で彼に抱かれたい。

「じゃあ、おれも入る。」

「えっ！やだ！」

冗談だと思いたかった。

「いいだろっ。おれが洗ってやる。」

再び抱き上げられて、ドレスルームへと運ばれる。

どうやら冗談では無さそうだ。

「もう、犬夜叉！」

大きな鏡のある洗面台の前でファスナーを最後まで下ろされると、繊細なシルクとペチコートがふぁさりと音を立てて床に落ちる。
口づけを施されながら、髪を解かれ身に着けているものを一つ一つ取り払われた。
籐の椅子に座り床に膝をついた男に片方ずつストッキングを脱がされていく様は、まるで女王さまにでもなったかのような錯覚を覚える。

かごめを裸にすると自らのカマーバンドをはずし、彼は仕立ての良いスラックスを脱ぎはじめた。

かごめは備え付けられていたタオルで身体を覆い、隣室に目をやった。
そこには大理石が敷き詰められた豪華な造りのバスルームがあった。広い窓があり湯船の中から外の景色を眺められるようになっている。どこもかしこも目を見張るほど贅沢で溜息が零れた。

すべて脱ぎ払った犬夜叉の、すでに勃ち上がった部分を見てしまいぎょっとした。
穏やかな照明だったとしても、恥ずかしすぎる。

浴室内に促されるも身を堅くして拒んだ。

「いやいや！こんな明るいとこ…」

「これでどうだ？」

彼は壁のいくつかのボタンを操作した。
証明は調節できるらしい。
浴室の窓から夜景が堪能できるようにということだろう。

ぼんやりとした灯だけになった室内をみまわしても、かごめはしがみついたドアを離そうとはしない。

「や…まだ明るい…」

「ったく、めんどくせえなあっ！」

彼は裸のままリビングにとって返し、テーブルにあった小さなアロマキャンドルを点して戻ってきた。それを窓枠に置き照明を完全に消すと、橙色のガラスのキャンドルホルダーに入った淡く揺らめく暖かい色があたりに放たれた。

「これでいいだろ？」

広い浴室はほのかなジャスミンの香りにみたされていく。

バスタブには透明なお湯が注ぎ込まれ、程好く温度を調節された湯が頭上のシャワーからさわさわと撒かれた。
白い湯気が立ち上り、世界を霞ませる。

かごめはタオルを外されるとシャワーの下に導かれ、水滴に塗らされながら激しく抱きしめられた。

ようやく愛しい娘を腕の中に収めた男は、荒れてゆく息も抑えられずに身体が昂ぶるにまかせついばむような口付けを繰り返す。

頬や唇を食むように何度も吸われ
暖かく流れる雨粒と彼の熱い肌が触れてかごめの身体も融合されるかのように溶けていく。

「どこ、洗って欲しいんだ？」

かごめの首筋を舐めながら柔らかいふたつの胸を両の手で揉み解し

「ここか？」

「あっ…」

突起した二箇所を同時につまんで指で押し潰すように刺激する。

「ここ…は…？」

「あんっ…」

高く淫らな声をあげても、シャワーの音は消してはくれない。
防音はしっかりしているだろうし隣室に声が漏れる心配などは無いが、自分の声が反響して大きく聞こえるのが無性に恥ずかしい。

「うん？」

「あ…」

暖かい雨に肌を撫でられながら、彼の右手はゆっくりと下に下りて茂みの中にある花に辿り着き、柔らかなその中心を探りいれる。

「ここもだろ…？」

「あぁ…っン…」

徐々に膨らんでいく小さな花芽に緩やかな振動を与え蜜の分泌を促した。

「あっ、そこ…ダメっ…感じちゃう…」

「感じさせてんだぜ？」

雰囲気のせいなのか、いつもよりも敏感な身体を持て余してかごめは震えながら首を振った。

彼はそれ以上無理強いせずにシャワーを止めると
泡立ったボディソープをかごめの身体に満遍なく塗りつけ、自らの身体を擦りつけるように滑らせた。

かごめも彼の身体についた泡を、掌で撫で付けていると、手を掴まれて立ち上がった部分に導かれた。
こんな所をどう洗ったらいいのかまるで分からない。そっと泡を滑らせるように掌で摩った。

「こう…でいいの？」

「おう、優しくな。」

どこもかしこも強そうな男の人でも、優しく扱わなければならない部分があるということが新鮮な驚きだった。そういえばここは男の人の急所なんだっけ、と妙に納得をしながらそっと泡を立てた。なんだかさっきよりも堅くなった気がする。

「今度、ローション使ってやってみようぜ。」

「やだっ。えっち！」

「あたりまえだろっ。」

遊ぶように真っ白になって絡まりあい、お互いの舌を行き来させる深い口づけを交わしながらシャワーを浴びて二人を包んでいた綿毛のような泡をすべて流した。

身体はさっぱりとしたけど、肌を隠してくれていた泡が無くなり再び全裸にされてしまったようで心もとなくて、かごめは思わす両腕で胸を隠した。

「さて…と。」

バスタブの淵に腰掛け猟犬のような目をした犬夜叉に、腕を引かれた。

「来いよ…」

腰から隆々と突き出た肉棒の上に、細腰を導く。

「や、やだ。こんなとこで…」

「いいじゃねえか、初めての女じゃあるめえし。」

「…誰のせいなのよ。」

引き寄せられて

「おれのせいか？」

「あんたしかいないでしょ。」

橙色の薄明かりの中で見つめ合う。

「いいだろ…？」

ぎゅっと抱きしめられて

「おまえ、もうおれのものなんだろ…？」

彼をまたぐように、足を開かされ

「まだ…よ…」

柔らかな花びらを指で広げると、堅いものをそこにあてがい

「待ちきれねえ…」

「あっ…！」

重力に任せるままかごめの体内にずぶずぶとそれが埋め込まれていく。

「は…あぁん！」

根元まで入ると、腰を掴み上下に揺さぶった。

「あんっ、あっ！あっ！」

かごめの胸の蕾を口に含みながら、小刻みに突き上げる。

「ああっ！あっ！」

反響する自らの大きな嬌声も、羞恥を忘れ恍惚としながら受け入れた。

「ああんっ…犬夜叉っ…！」

かごめの艶やかで切なげな声が犬夜叉の一層の興奮を掻き立てる。

「かごめっ！」

きゅっ、きゅっ、と肉が愛液に滑りこすられる音。
どちらのものなのか、入り混じる荒い息使い。

かすかに瞳を開くと、彼の肩越しに見える窓。

遠くの暗い外には、無数に煌く地上の星。
窓辺にはほのかなキャンドルの明かり。
広い窓ガラスには、かすかにだが淫らに揺れる自分達の姿が映し出されていた。

犬夜叉にしがみつく自分と自分を抱きしめる彼の広い背中と長い黒髪。

　このひとが教えてくれた

　性のよろこびも　愛することも　その切なささえも

　みんな

めくるめく官能の波に揺られていた男女の耳に、バスタブにお湯が満たされた事を知らせる電子音が届いた。

彼は向きを変えるとそのまま湯の中に沈み

「たまにはこういうのもいいだろ？」

腕を伸ばしなにやらボタンを押すと、背後から勢いよく泡がふきだした。

「きゃあっ！あぁンっ！」

傍若無人に走り回る空気の粒に身体中を撫でられくすぐられながら弾むように下から激しく突き上げられて彼を銜えた部分の快感が頂点に届き

「あああんっ！も…だめ…！」

飲み込んだ感じやすい突先をぎゅっと締め付けて

「あっ、かごめっ…いくぞ…？」

箇所を大きく痙攣させて
同時に二人はそのときを迎えた。

その瞬間、身体を持ち上げられると快感をもたらしてくれていた杭が勢いよく引き抜かれ中心に風穴が空いたかのような寂しさにみまわれた。ぐっと抱きしめられひくひくと痺れたような余韻を感じながら湯船にぽつぽつと現れては泡に紛れ流れる白い雫を、荒い息が静まるのを待ちながらぼんやりと眺めていた。

　中にして欲しい

　あの熱いものを子宮で感じたい―

そんなことをしたら後で心配事に悩まされるのは分かりきっているのに、つい願ってしまう。このかすかな寂しさを感じるたびに。

やっぱり自分はただの女なのだと、毎度の事ながら思い知らされる。

手で掬おうと追いかけても、はじけて粒になって逃げていく。
形の定まらない白い粒を見ていると、ふと子供のころ好きだった飴菓子を思い出した。
表面は堅い飴に覆われていて、噛むと中は柔らかいゼリーのよう。赤やオレンジや白の、いろとりどりの可愛いお菓子。

一粒口に含むと、それはとても甘くて…

　とても―

身体のどこも自由には動かせないほど、ぐったりと疲れ果てたかごめは白いガウンを纏い居間のソファーに横たわっていた。華奢な頭は同じくガウン姿の犬夜叉の膝の上に乗せられている。

大きな手に塗れた髪を撫でられながら、かすかに瞼を開くのも億劫そうにかごめは呟いた。

「髪…拭かなきゃ…」

「おれが拭いてやるから、寝てろよ。疲れたんだろ？今日は慣れねえことして。」

「ん…」

暖炉のようなデザインの棚の上に豪華な装飾の置時計が見えた。
その針は母に伝えた帰宅時間をさそうとしている。

「あ…もう帰らないと…。」

「泊まっていけよ。」

疲れた身体はこの提案に大賛成だったが、それではいろいろと困る事もある。

「だって、着替えも無いし…」

「おれが明日買ってやる。」

この申し出を聞いて、身体は動かないがスキップするほど心が躍った。
犬夜叉に服を買って貰うなんて、信じられないほど嬉しい。以前に見た映画のワンシーンがよみがえった。まさか、あの憧れのシーンが実現するのだろうか？
夢のような光景を思い浮かべながら、家では母が自分の帰りを待っていることを思い出す。

「ママが…心配するから…」

「おれが電話しといてやるよ。」

また信じられない提案に、目が覚めるほど驚いた。

「なっ、なんて言う気？」

頭を浮かせて半ば起き上がり、目を見開いて彼に問う。
あの母なら、誰から電話がきても驚かないだろうけど―

「…かごめはおれが預かった。」

焦って緊張したのがばからしくなるほどにどっと脱力して、また彼の膝に倒れる。

「なによ、それ。誘拐犯みたい。」

可笑しくなるのを堪えながら、呆れたようにすぐ上にある犬夜叉の端整な顔を見つめて

「似たようなもんだろ？」

ふざけた答えにまたくすりと笑って
重たすぎる瞼を閉じると、かごめは安心した乳飲み子のように心地良い眠りの中にまどろんでいった。

　あのお菓子、なんて名前だったかしら

　たしか

　　　ゼリー…

思い出の中のお菓子はとても甘くて、ほんの少し酸っぱくて

　寂しさも忘れさせてくれるほど

　　　美味しかった―